中学受験の学校選びで、近年人気を伸ばしている大学付属中学。特に日本大学の付属校は狙いやすさから必ず候補に挙がります。その中でも日大豊山は「日本大学系列で唯一の男子校」という立ち位置もあり、例年多くの志願者を集めている学校です。
一方で、受験相談の現場ではこんな声を耳にします。「わざわざ中学受験をして、最終的に日大に行くのは勿体ないのではないか」。実際日大豊山は卒業生の約7割が日本大学へ進学する学校です。この話題はなにも”日大”だからではなくMARCH付属でも常に議論される話題です。感覚として理解できる一方で、数字を並べると少し違った構図が見えてきます。
この記事では、学校が公表している進学実績と内部進学の制度をもとに、日大豊山という学校の役割を整理します。結論を押しつけるのではなく、判断材料を並べることが目的です。当記事には特定の学校や入試制度を非難する意図は全くありませんことをご承知おき下さい。
日大豊山という学校の輪郭
日本大学豊山中学校・高等学校は、東京都文京区の護国寺近くに校地を構える中高一貫の男子校です。校訓は「強く 正しく 大らかに」。日本大学の正付属校としては唯一の男子校で、創立以来「質実剛健」の気風を掲げてきました。
校内の雰囲気については、卒業生や在校生の声から「明るく挨拶の行き届いた学校」という評価が目立ちます。校地は都心らしくコンパクトで、部活動の場は限られますが、体育館などの施設は手入れが行き届いているとの声が多い学校です。日大豊山は水泳などが非常に強く、部活動に力を入れている学校ですからそれが表れてるのでしょう。
受験の難易度としては、四谷大塚の模試で偏差値45前後が合格ラインの目安とされており、難関校というより中堅上位の位置づけです。2025年度入試では第1回が333名、第2回が630名、第3回が528名、第4回が620名の志願者を集め、特に2科目入試の回に受験生が集中する傾向があります。複数回受験できる設計のため、本命としてだけでなく併願校として選ぶ家庭も少なくありません。
つまり受験者層は「難関校を第一志望にしながら安全圏として併願する層」と「最初から日大への進学を視野に入れて豊山を本命にする層」の二つに分かれます。この二層構造が、この学校の進学実績を読み解く上での前提になります。
進学実績を数字で見る
学校が公表している2025年度卒業生のデータを見てみましょう。
2025年度卒業生467名の現役進学状況
▶ 現役大学進学率 93%(434名)
▶ 日本大学への進学率 69.6%(325名)
▶ 他大学への進学率 23.3%(109名)
「7割が日大に行く」という印象は、数字の上でも概ね正確です。2023年度の実績では74.3%でしたから、年度による幅はあるものの、卒業生の7割前後が日本大学へ進む構図は安定しています。
ただし注目したいのは残りの約23%です。109名という人数は、一学年の4人に1人近くに相当します。この層がどこへ進んでいるのかを見ると、学校のもう一つの顔が見えます。
2025年度の他大学合格実績(現役のみ・抜粋)
▶ 東北大学1名 九州工業大学1名
▶ 早稲田大学5名 慶應義塾大学6名 上智大学8名 東京理科大学14名
▶ 明治大学12名 青山学院大学5名 立教大学5名 中央大学7名 法政大学17名 学習院大学2名
▶ このほか東洋・駒澤・専修・関西学院・芝浦工業など多数
さらに学校は、上智大学・東京理科大学・学習院大学・明治・立教・中央・法政などへの指定校推薦枠を複数保有しています。つまり「日大一択の学校」ではなく、「日大への切符を手元に置きながら、上を目指す道も残されている学校」というのが実態に近い姿です。
日大への内部進学はこう決まる
日大豊山から日本大学へ進む場合の選考方式は、大きく三つに分かれています。
基礎学力選抜方式
内部進学者の約7割がこの方式です。高校2年の4月、高校3年の4月と9月に実施される「基礎学力到達度テスト」の成績順で、希望学部への推薦が決まります。マークシート形式で教科書レベルの問題が中心ですが、出題数が多く処理速度が問われ、高3の9月は難易度が上がる傾向があります。
付属特別選抜方式
3年間の学業成績に加え、資格取得や課外活動の実績などを総合して評価する方式です。日頃の積み重ねがものを言う選考で、内部進学者の約3割がこのルートです。
国公立併願方式
基礎学力到達度テストの成績で日大への推薦を確保しながら、国公立大学に限って併願受験できる制度です。ただし枠は少なく、国公立に不合格だった場合は日本大学への進学が必須になります。
ここで重要なのは、内部進学は「在籍していれば自動的にもらえる権利」ではないという点です。希望学部、とりわけ理工学部や医学部・薬学部などの人気学部に進むには、定期テストと到達度テストで継続的に上位の成績を残す必要があります。日大への推薦枠は大きい一方で、その枠の中での順位争いは在学6年間の成績勝負です。
推薦を残したまま他大学は受けられるのか
保護者から最も多い質問がこれです。結論から言えば、制度上の併願が認められているのは国公立大学だけです。
早慶やGMARCHなどの私立大学を一般入試で受ける場合は、原則として日大への推薦を使わない選択をすることになります。合格すれば他大学へ進み、不合格なら浪人か他の私立大学という、一般の受験生と同じリスクを背負う形です。
それでも毎年100名超が他大学へ現役進学している事実は、「推薦に甘えず勝負する生徒が一定数育つ土壌がある」ことを示しています。ただし注意点として、学校のカリキュラムは日大への内部進学を軸に組まれている面が強く、難関私大の一般入試に必要な記述対策やハイレベルな演習は、家庭で補う意識が必要です。塾や個別指導を併用する家庭が多いのもこのためです。
「推薦があるから安心」と「推薦があるから気が抜ける」は紙一重です。推薦を保険として機能させるには、一般受験レベルの学力を中学の早い段階から途切れさせない仕組みづくりが鍵になります。
勿体ないという見方への答え
「最終学歴が日大になるなら中学受験は勿体ない」という考え方は、大学受験の結果だけを評価軸にした見方です。この見方には二つの見落としがあると考えます。
一つ目は、日本大学という進路先の重さです。日大は学部数・学生数ともに国内最大級の総合大学で、法学・経済・理工・医学・芸術まで選択肢の幅は突出しています。「日大に流れる」のではなく「日大の中で自分の道を選ぶ」進路の取り方は、在校生にとっては合理的な選択です。実際、理工学部には2025年度だけで103名が進学しており、理系進路の受け皿として機能しています。
二つ目は、6年間の過程の価値です。大学受験を「唯一のゴール」としない環境では、部活動や課外活動に時間を使える余裕が生まれます。豊山の卒業生の話に共通するのは、この余裕が人間関係や自主性を育てたという声です。受験勉強だけの6年間と、文武を両立させた6年間では、18歳の時点での人物像が変わります。
もちろん逆の見方も成り立ちます。難関国公立や医学部を明確に目指す子にとって、カリキュラムの中心が内部進学対策である学校は、必ずしも最適解ではありません。その場合は特進コースの存在や、塾との併用を前提にした計画が欠かせません。
つまり「勿体ないかどうか」は学校が決めるのではなく、その子が6年間をどう使うかで決まる、というのが数字から読み取れる答えです。
向いているのはどんな家庭か
最後に、志望校検討の目安を整理します。
合いやすい
▶ 日大の特定の学部や学部横断の選択肢に魅力を感じる
▶ 部活動と勉強の両立を6年間のテーマにしたい
▶ 男子校の環境で伸び伸び育ってほしい
▶ 推薦を保険にしつつ他大学受験も視野に入れたい
慎重に検討したい
▶ 難関国公立や医学部への一般受験が第一目標
▶ 学校任せで難関大対策まで完結させたい
▶ 付属校であること自体に抵抗感がある
日大豊山は「受かれば安心」な学校ではなく、「入ってからの設計次第で価値が大きく変わる」学校です。内部進学の権利を活かすもよし、保険にして上を狙うもよし。その設計図を早く描けるかどうかが、6年後の満足度を分けます。
学校説明会や文化祭に足を運び、数字だけでは分からない空気を確かめた上で、お子さんの性格と将来像に照らして判断してください。